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稲垣 宏 (イナガキ ヒロシ)

  • 医学研究科臨床病態病理学分野 教授
メールアドレス: hinagakimed.nagoya-cu.ac.jp
Last Updated :2024/04/02

研究者情報

学位

  • 名古屋市立大学医学部医学科/博士(医学)

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J-Global ID

研究キーワード

  • 人体分子腫瘍病理学   

研究分野

  • ライフサイエンス / 人体病理学

学歴

  •         - 1984年   名古屋市立大学   医学部   医学科

所属学協会

  • 日本臨床細胞学会   日本リンパ網内系学会   日本血液学会   日本癌学会   日本病理学会   

研究活動情報

論文

MISC

共同研究・競争的資金等の研究課題

  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 2021年04月 -2024年03月 
    代表者 : 奥村 嘉英; 稲垣 宏
     
    申請者は、唾液原発粘表皮癌の1)CRTC1/3-MAML2融合遺伝子陰性例:①腫瘍発生機序に関与する遺伝子異常の検索、②本腫瘍群に特化した病理悪性度分類および予後スコアの構築 2)融合遺伝子陽性例: ①腫瘍進展・高悪性度化に関与する遺伝子異常の検索 ②本腫瘍群の組織学的多様性の検討の上記4点の研究を進めている。本年度は,申請者のグループらは、1)-②と2)-②に焦点を当て研究を行い、以下の新しい知見を明らかにした。 唾液腺原発粘表皮癌177例(融合遺伝子陽性例110例)の組織学的検討を行った.粘表皮癌の組織学的に亜型とされるOncoytic-・Wartin-like-・spindle variantはCRTC1/3-MAML2融合遺伝子陽性例のみに認められ、Clear cell-・ Sclerosing-・Mucinous-・Central variantは 融合遺伝子陽性と陰性共に認めることを明らかにした。さらに本研究においては、Ciliated-・Mucoacinar variantやHigh-grade transformationを有する症例は認めなかった。また組織学的予後不良因子とされるMarked nuclear atypia、 Frequent mitoses、 Extensive necrosisは唾液腺原発粘表皮癌においては非常にまれな所見であり(3-5%)、本研究に用いた粘表皮癌においては、overt keratinisationを認める症例はなかった。本結果は、組織学的多様性を示す粘表皮癌の病理診断に寄与する知見である(Histopathology、2022年)。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 2021年04月 -2024年03月 
    代表者 : 稲垣 宏; 加納 里志; 中黒 匡人; 奥村 嘉英; 岩井 大; 丹生 健一; 草深 公秀; 櫻井 一生; 山元 英崇; 河田 了; 村瀬 貴幸; 田口 健一; 正木 彩子; 羽藤 直人; 多田 雄一郎; 川北 大介; 花井 信広; 大上 研二; 長尾 徹; 長尾 俊孝
     
    唾液腺癌は稀な腫瘍であるが、われわれは多施設共同研究組織を構築し、これまでに多数の症例を収集した。2021年度は以下の研究を行い、論文発表を行った。 1. 粘表皮癌は唾液腺癌の中で最も頻度の高い腫瘍であるが、その組織学的多様性は十分明らかになっていない。我々は粘表皮癌117例を亜型分類したところ、Classical (74%), Clear/oncocytic (8%), Warthin-like (3%), Clear cell (3%), Oncocytic (2%), Spindle (2%), Sclerosing (2%), Mucinous (3%), Central (2%)であることを明らかにした。Ciliated, Mucoacinar, High-grade transformationは認められなかった(Histopathology, 2021, PMID: 34657306)。 2. 粘表皮癌に次いで頻度の高い腫瘍である腺様嚢胞癌は、組織学的に、充実性腫瘍成分により悪性度を推定することが多いが、それを正確に判定することはしばしば困難である。われわれは腺様嚢胞癌195例を臨床病理学的に検討し、充実性腫瘍成分の短径が客観的な悪性度指標であることを明らかにした(Cancer Sci, 2021, PMID: 33377247)。 3. 粘表皮癌は稀に胸腺に発生するが、その詳細は明らかではない。われわれは国際共同研究を行い、胸腺粘表皮癌の臨床病理学的、分子病理学的特徴を系統的に解析した。興味深いことに、CRTC1-MAML2融合遺伝子は56%の症例に認められ、患者の予後良好と関連した(Am J Surg Pathol, 2022, PMID: 35319525)。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(C)
    研究期間 : 2020年04月 -2023年03月 
    代表者 : 川北 大介; 松尾 恵太郎; 稲垣 宏; 多田 雄一郎; 澤部 倫
     
    頭頸部がんは、喫煙・飲酒を主とする環境因子が主な発症因子とされているが、予後への影響は不明確である。またアルコール・アルデヒド脱水素酵素遺伝子多型をはじめとした遺伝的素因が環境因子の影響を修飾する可能性が示唆されている。 本研究の目的は、遺伝的影響を考慮した生活習慣の頭頸部がん予後への影響を部位別に検討し、新規予後予測モデルを構築することである。具体的な目的は、1) 中咽頭がん症例で血清検体のある症例について、enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)法にてHPV抗体価を測定する。そして再発・予後への影響について検討を行う、2) 鼻副鼻腔がん症例においてHPV感染の有無について、ホルマリン固定パラフィン包埋組織標本を用いたp16の免疫組織学的検討で評価する。血清検体のある症例についてenzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)法にてHPV抗体価を測定する。それぞれの予後への影響について、そしてそれらの相関関係について検討を行う、3) 大規模唾液腺がん患者コホートを用いて、組織型別での喫煙・飲酒状況の予後への影響について検討を行う。 令和2-3年度は唾液腺導管がん・唾液腺腺様嚢胞がん・唾液腺粘表皮がん・鼻副鼻腔がんコホートより、臨床関連予後因子 (原発部位、臨床病期、併存症、治療法など)・組織特異的な遺伝子異常(HER2・AR・MYBなど)についての情報を収集し、それらに加えて喫煙・飲酒習慣についてカルテより情報収集を行った。また鼻副鼻腔がんホルマリン固定パラフィン包埋組織検体を用いて、p16の免疫組織学的検討を開始した。HPVに関しては、タイピング検査を行うための準備を始めたところである。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(B)
    研究期間 : 2018年04月 -2021年03月 
    代表者 : 稲垣 宏; 加納 里志; 中黒 匡人; 奥村 嘉英; 岩井 大; 丹生 健一; 草深 公秀; 櫻井 一生; 山元 英崇; 河田 了; 村瀬 貴幸; 田口 健一; 正木 彩子; 羽藤 直人; 多田 雄一郎; 川北 大介; 花井 信広; 大上 研二; 長尾 徹; 長尾 俊孝; 内藤 健晴
     
    代表的な唾液腺腫瘍のひとつである腺様嚢胞癌に関して、EGFR経路の遺伝子異常を検索したところ、これらの異常がこれまで考えられていたよりもより高頻度に認められ、また患者の不良予後と関連することを明らかにした(Oncotarget、 2018年)。唾液腺腫瘍hは比較的稀であり、研究を進める上で多数症例の収集が重要である。本研究のために構築した多施設共同研究グループから約200例の症例を蒐集し、病理中央診断を行った(2018年9月)。これらの多数症例を用いて、現在さらに解析を続けている。 もう一つの代表的な唾液腺腫瘍である粘表皮癌に関して、CRTC1/3-MAML2融合遺伝子の意義を検討したところ、低い臨床病期症例に関して、融合遺伝子陽性症例では術後放射線治療を行わなくとも良好な予後を示すことを明らかにした(Head and Nec、 2018年)。同様なことが、高い臨床病期症例においても当てはまるか検討するため、構築した多施設共同研究グループから約100例の症例を蒐集した。今後、病理中央診断を行い、分子病理解析を行い、データを出す予定である。 この他、小細胞癌と関連した副鼻腔内反性乳頭腫(Auris Nasus Larynx、印刷中)および上咽頭明細胞癌(Acta Oto-Laryngologica Case Report、2018年)について症例報告を発表した。 また唾液腺腫瘍に関する日本語総説を依頼され執筆(病理と臨床)するとともに、シンポジウムでの発表を依頼され、講演を行った(日本臨床細胞学会およびTaiwan Joint Cancer Conference)。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(C)
    研究期間 : 2017年04月 -2020年03月 
    代表者 : 村瀬 貴幸; 稲垣 宏
     
    第43回日本骨髄腫学会で多発性骨髄腫(MM)におけるCCND1、MMSET、MAF遺伝子再構成に関し発表した。MMのIGH-CCND1、IGH-FGFR3、IGH-MAF遺伝子再構成検出にFFPE組織の利用は臨床的に有用である。FFPE組織FISH法で遺伝子再構成が同定でき、FFPE切片の免疫染色(IHC)で遺伝子再構成が検出できるかを確認した。[1]目的のIHCを施行し、cut off値を決定した。CCND1、FGFR3、MAFのIHCのcut off値、感度は各々5%、100%、100%;10%、95.0%、96.0%;10%、90.0%、98.3%であった。[2]遺伝子変異未検索MM例のFFPE組織で目的のIHCを実施し、各々の遺伝子再構成に対する組織FISH法を行った。IHCの感度、特異度はCCND1で100%、97.5%、FGFR3で90.9%、98.9%、MAFで100%、100%であった。以上からFFPE組織FISH法で遺伝子再構成は良好に同定でき、IHCも有用であった。 第107回日本病理学会でETV6-RET融合遺伝子陽性唾液腺分泌癌例に関し発表した。分泌癌ではETV6遺伝子はNTRK3遺伝子と、一部症例ではNTRK3以外の遺伝子と転座を形成する。我々はETV6-NTRK3融合遺伝子陰性分泌癌症例でETV6-RET融合遺伝子をFFPE標本RT-PCR法で同定した。 第58回日本リンパ網内系学会でMAFB遺伝子再構成陽性多発性骨髄腫例に関し発表した。IGH-MAFB遺伝子再構成骨髄腫例は化学療法で完全寛解したが、脳生検で再発が確認されたため全脳照射と化学療法を追加したが、死亡となった。脳生検の腫瘍染色体分析とFFPE組織FISH法でMAFB遺伝子分離が、IHCでMAFB発現が認められ、MAFB遺伝子再構成陽性骨髄腫では組織FISH法と免疫染色が有用であった。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(C)
    研究期間 : 2015年04月 -2018年03月 
    代表者 : 稲垣 宏
     
    本研究では、唾液腺に発生する粘表皮癌、腺様嚢胞癌、乳腺類似分泌癌に焦点を当てた。[粘表皮癌]本腫瘍においては、新規亜型であるワルチン腫瘍類似粘表皮癌を提唱し、amphiregukin高発現の意義を明らかにし、CRTC1-MAML2融合遺伝子陽性症例を示す非進行例では術後放射線治療が不要であることを指摘した。[腺様嚢胞癌]MYB、MYBL1、NFIB遺伝子異常、EGFR経路遺伝子異常の意義を明らかにした。また免疫治療と関連が深い癌精巣抗原が多く発現していることを明らかにした。[乳腺類似分泌癌]定型的なETV6-NTRK3融合遺伝子以外に新規遺伝子異常が本腫瘍に関与していることを明らかにした。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(C)
    研究期間 : 2012年04月 -2015年03月 
    代表者 : 稲垣 宏; 山田 勢至; 正木 彩子
     
    アジアにおける成人縦隔発生リンパ増殖性疾患の特徴を分子病理学的に検討した。胸腺MALTリンパ腫では多くのがん抑制遺伝子にメチル化が認められた。特にp14ARFメチル化は腫瘍径と相関し、腫瘍進展との関連が示唆された。原発性縦隔大細胞性Bリンパ腫について欧米から異常が指摘されているCIITAおよびPDE5A遺伝子についてFISH法による検索を行った。しかし明らかな異常は認められず、欧米症例との差異が示唆された。この20年間の胸腺MALTリンパ腫研究の進歩を検討した。著名な血液病理医と議論を行い、その結果を第4版胸腺腫瘍WHO分類に筆頭著者として著した。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(C)
    研究期間 : 2011年04月 -2015年03月 
    代表者 : 中沢 貴宏; 大原 弘隆; 稲垣 宏; 林 香月; 内藤 格
     
    手術標本よりDNAを抽出して免疫グロブリン重鎖超可変領域(CDR2)を解析した。1)自己免疫性膵炎3例、コントロールとしての閉塞性性膵炎3例においてモノクローナルなVH遺伝子のrearrangementは1例も 認めず、AIPに特徴的なVH familyやVH fragmentは認めなかったが、VH3 familyが比較的多く選択されていた。2)無体細胞変異クローン率は閉塞性性膵炎が5.1%に対して自己免疫性膵炎では18%と高頻度(P=0.0053)に認められ、自己免疫性膵炎の発症に自己免疫現象が関与している可能性が示唆された。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(C)
    研究期間 : 2009年 -2011年 
    代表者 : 稲垣 宏
     
    われわれは成人細胞白血病/リンパ腫(ATLL)細胞株を用いたマイクロRNAアレイ解析および定量的PCRを行い、6種類のマイクロRNAがATLL特異的に増加または減少していることを認めた。これらのマイクロRNAの持つ臨床病理学的な意義を明らかにするために、多数の臨床検体を用いて検討したところ、マイクロRNA-Xの高発現が有意に予後不良因子であった。このマイクロRNA-Xの機能解析を行うために、細胞株にsiRNAを導入し、その発現を抑制すると細胞増殖は有意に阻害された。以上よりマイクロRNA-XはATLLにおいて重要な役割を有することが明らかとなった。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(B)
    研究期間 : 2007年 -2009年 
    代表者 : 上田 龍三; 小松 弘和; 石田 高司; 稲垣 宏
     
    腫瘍組織に浸潤するリンパ球(TIL : Tumor infiltrating lymphocyte)中のTregの存在は、様々ながんにおいて腫瘍細胞を宿主の免疫応答から回避させるだけでなく、癌ワクチンなどの癌免疫療法が未だ十分な効果をあげられない一因と考えられており、この制御性T細胞の制御は癌免疫療法が克服すべき大きな課題と考えられている。NOGマウスを用いたホジキンリンパ腫モデルにおいてCCR4抗体の投与はホジキンリンパ腫周囲のTregの数を減少せしめた。CCR4抗体はホジキンリンパ腫のみならず、様々ながんに対し、新しい概念の薬剤としての臨床応用が期待される。
  • MALTリンパ腫の分子病理学的解析と細分類への応用
    科学研究費補助金:
    研究期間 : 2007年04月 -2008年03月 
    代表者 : 稲垣 宏
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(C)
    研究期間 : 2007年 -2008年 
    代表者 : 稲垣 宏
     
    胃MALTリンパ腫の免疫グロブリン重鎖遺伝子解析から慢性炎症を基盤に発生するMALTリンパ腫群と慢性炎症の関与が明らかではない群は互いに独立していることを明らかにした。またアジア、欧州、米国間で共同研究を行い、皮膚辺縁帯B細胞リンパ腫は慢性炎症の関与が明らかではない群であること、DAPKおよびp16遺伝子メチル化が高率に認められること、またアジア症例には好酸球の浸潤が特徴的であること、を明らかにした。MALTリンパ腫全体像を最新成果とともに総説に著した。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(C)
    研究期間 : 2005年 -2006年 
    代表者 : 稲垣 宏
     
    胃MALTリンパ腫を慢性炎症関連群と非関連群に分類し,免疫グロブリンVH遺伝子を解析したところ,前者ではVH23,VH30が多くの症例で選択されていたが,後者では特徴的なVH遺伝子は認められなかった.この結果はそれぞれの群が異なるB細胞から発生すること,そして前者から後者への移行が稀であることを示唆している(Mod Pathol 2007).胸腺MALTリンパ腫は自己免疫疾患と特に関連が深い腫瘍である.この腫瘍においてVH遺伝子を解析したところ,胃MALTリンパ腫慢性炎症関連群と同様,VH23,VH30が多くの症例で選択されていた(J Pathol 2006).これらの結果から,慢性炎症と関連が深いMALTリンパ腫は特徴的なVH遺伝子を選択しており,慢性炎症関連群と非関連群は分子生物学的にも異なる腫瘍群であることが示された.p16遺伝子不活化はリンパ腫進展に関与すると考えられている.肺MALTリンパ腫において解析したところ,腫瘍診断時,すでに多数の腫瘍でp16遺伝子が不活化しており,API2-MALT1キメラ遺伝子や臨床病理学的因子との関運も認めなかった.以上より肺MALTリンパ腫ではp16遺伝子不活化は鵬進展より腫瘍発生に関与していることが示唆された(Mod Pathol 2005).肺MALTリンパ腫ではAPI2-MALT1キメラ遺伝子陽性率が50%以上と特に高い.細胞診標本を用いたキメラ遺伝子検出(multiplex RT-PCR法)について検討したところ,BAL,痰,胸水などの検体を用いて高精度にキメラ遺伝子が検出可能であり,遺伝子診断として有用であると考えられた(Int J Hematol 2005).このほか,MALTリンパ腫の遺伝子異常とその臨床病理学的意義について総説を発表した(Pathol Int In press).また自然寛解を示した口腔MALTリンパ腫の一例(Pathol Int 2006),胃MALTリンパ腫除菌治療後に大細胞性リンパ腫の発生を認めた症例(Am J Gastroenterol 2006)を報告した.
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(C)
    研究期間 : 2003年 -2004年 
    代表者 : 稲垣 宏
     
    API2-MALT1キメラ遺伝子はMALTリンパ腫に特異的な遺伝子異常である.この遺伝子異常を簡便に検出するMultiplex RT-PCR法を開発し(Am J Pathol,2001),肺,皮膚,眼付属器,大腸,胃のMALTリンパ腫それぞれにおいて,キメラ遺伝子の持つ臨床病理学的意義を明らかにした.肺MALTリンパ腫では,41%の症例にキメラ遺伝子が検出された.キメラ遺伝子は自己免疫疾患を有する患者に少なく,血清LDHは正常範囲を示す症例に多く認められた.また組織学的には典型例が多く,核BCL10発現と高い相関を示した(Am J Pathol,2003).皮膚MALTリンパ腫アジア症例24例を解析したが,キメラ遺伝子や,腫瘍発生に関連が深いと考えられているボレリア感染は明らかではなかった.しかしキメラ遺伝子と関連が深い核BCL10発現はしばしば認められ,臨床的に結節形成と関連を認めた(Am J Surg Pathol,2003).眼付属器MALTリンパ腫では13%の症例にキメラ遺伝子を検出した.これらの症例は同時に多くの染色体に数的異常を示すことが多く,キメラ遺伝子陽性眼付属器MALTリンパ腫では,少なくとも一部では,びまん性大細胞性リンパ腫へ移行する可能性が示唆された(Modern Pathol,2003).大腸MALTリンパ腫では,15%の症例にキメラ遺伝子を認めた.キメラ遺伝子は男性症例に多く認められ,また高い臨床病期と相関を示した、ゆえに大腸MALTリンパ腫では,キメラ遺伝子が陽性の場合,十分な経過観察が必要である(Modern Pathol,2003).多臓器に浸潤する胃MALTリンパ腫を解析した結果,これらはAPI2-MALT1キメラ遺伝子陽性例やピロリ菌陰性例が多く,また除菌治療に抵抗性であることが示された(J Gastroenterol,2004).キメラ陽性胃MALTリンパ腫症例は全例除菌治療に抵抗性を示したため,除菌反応性とキメラ遺伝子の有無から,胃MALTリンパ腫を(A)除菌反応群(B)除菌抵抗性キメラ遺伝子陰性群(C)除菌抵抗性キメラ遺伝子陽性群に分類した.そして,それぞれの群はユニークな特徴を持つことが明らかとなった(Am J Surg Pathol,2004).この他,若年者に発症したHIV陰性API2-MALT1キメラ遺伝子陰性肺MALTリンパ腫を報告した(Leuk Lymphoma,2004).
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(C)
    研究期間 : 2001年 -2002年 
    代表者 : 稲垣 宏
     
    API2-MALT1キメラ遺伝子はt(11;18)から同定されたMALTリンパ腫特異的な遺伝子異常である。その陽性率は臓器により異なると考えられている。しかし、この遺伝子異常の持つ臨床病理学的意義はいまだ明らかではない。われわれはパラフィン切片を用いて、この遺伝子異常を簡便かつ高感度に検出するmultiplex RT-PCR法を開発し、肺、胸腺、および皮膚MALTリンパ腫を中心に、API2-MALT1キメラ遺伝子の持つ臨床病理学的意義を多数例により検討した。その結果、API2-MALT1キメラ遺伝子は肺MALTリンパ腫において高率に認められたが、胸腺、および皮膚MALTリンパ腫では陽性例を認めなかった。さらに、肺MALTリンパ腫において、API2-MALT1キメラ遺伝子は自己免疫疾患とは独立したリンパ腫発生因子であること、陽性症例は臨床的にややindolentであり、"典型的"な組織像を示すことを明らかにした。これらの結果からキメラ遺伝子陽性MALTリンパ腫は、特徴的な臨床病理学的亜型を形成することが示唆された。胸腺MALTリンパ腫はアジアに多く自己免疫疾患と強い関連を示す腫瘍であることが今回の研究で明らかとなったが、この腫瘍の解析でもAPI2-MALT1キメラ遺伝子と自己免疫疾患との独立性を支持する結果を得た。またBCL10核内発現との強い相関は肺MALTリンパ腫では認めたが、皮膚MALTリンパ腫では否定的で、BCL10免疫染色はAPI2-MALT1キメラ遺伝子の代用マーカーとしては限界があることも明らかになった。この他に、稀な食道MALTリンパ腫と尿管MALTリンパ腫におけるAPI2-MALT1キメラ遺伝子について報告した。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(C)
    研究期間 : 1999年 -2000年 
    代表者 : 稲垣 宏
     
    滑膜肉腫ではt(X;18)(p11.2;q11.2)転座が95%以上の症例に認められる.この転座によりSYT遺伝子とSSX遺伝子とが再配列し,その結果生じたSYT-SSXキメラ遺伝子が滑膜肉腫の腫瘍発生に深く関与している.このキメラ遺伝子の検出は病理補助診断としても有用である.われわれは細胞診標本およびホルマリン固定組職標本から抽出したRNAを用いて高感度RT-PCRによりSYT-SSXキメラ遺伝子を検出し,90%以上の症例において滑膜肉腫の遺伝子診断が可能であった.次にわれわれは転座するSSX1とSSX2が及ぼす臨床病理学的意義について検討した.手術時遠隔転移を認めない滑膜肉腫患者を対象にした.腫瘍の病理標本からRNAを抽出し,再構成しているSSX遺伝子の種類を同定した.免疫組織学的に細胞周期関連蛋白であるKi67,p27,癌抑制遺伝子p53,およびアポトーシス関連蛋白bcl-2の発現を調べた.そしてSSX遺伝子の種類(SSX1またはSSX2)と組織型,核分裂像,Ki67,p27,p53,bcl-2の発現,臨床データ,予後との関連を統計学的に解析した.その結果,SYT-SSX1遺伝子はKi67の高発現と核分裂像の増加とに高い相関を認めたが,その他の因子との相関は明らかではなかった.さらに予後に関与する因子においては,SYT-SSX1,Ki67,核分裂像は無転移生存率の重要な危険因子であった.これらのことから再構成するSSX遺伝子の種類は腫瘍細胞増殖能に関連しており,予後を規定する因子であると考えられた.次にSYT-SSX遺伝子が細胞増殖能を高めるメカニズムを検索している.SYT-SSX遺伝子は明らかなDNAおよびRNA結合部位を持たないため,蛋白-蛋白の相互作用により腫瘍化能を付与していると考えられる.われわれは,SYT-SSX蛋白と結合する未知の蛋白のスクリーニングを,酵母細胞への遺伝子導入系を用いたTwo-hybrid法にて行った.その結果,数種の細胞周期関連蛋白がスクリーニングされた.現在,これらの細胞周期関連蛋白が滑膜肉腫の腫瘍発生にどのように関与しているか検討中である.
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(B)
    研究期間 : 1996年 -1998年 
    代表者 : 栄本 忠昭; 稲垣 宏
     
    1. 肺末梢型扁平上皮癌(SCC)と腺扁平上皮癌27例の前癌病変につき検討した.(1)両者共,非癌部の間質線維化を高頻度に伴い,肺胞細気管支上皮過形成(AH),異型腺腫様過形成(AAH),さらに,AAHの一部に扁平上皮化生を伴う「AAH様病変」もみられた.(2)また,末梢型SCC非癌部の小気管支・細気管支に扁平上皮化生一異形成を示す例もあった.(3)Surfactant apoproteinの発現がAHでは増加し,AAHでは低下した.p53は1例のAAH様病変のみで陽性,c-erbB-2は全例で陰性であった.PCNAまたはMIB-1のlabeling indexはAH,AAH,AAH様病変の順に上昇した. 2. 肺大細胞癌の初期像検索の目的で,主に未分化大細胞より成る肺癌20例を解析した.免疫組織化学的染色,また,EBウイルスのin situ hybridization検索を行った.その結果,(1)多くの肺大細胞癌は扁平上皮癌または腺癌のプログレッションによって生ずること,(2)EBウイルスと関連する少数例は最初からリンパ上皮腫様癌として発生すること,(3)大細胞性内分泌癌としての発癌経路もあることが示唆された. 3. 肺小細胞癌の組織発生検索の目的で,小細胞癌と非小細胞癌の混合腫瘍のクローン性をp53遺伝子異常の起こり方から検討した.先ず,pureな小細胞癌11例におけるp53遺伝子シークエンスを調べたところ,点突然変異は8例にみられ,その部位には同一例が認められなかった.混合型の4症例では全てに点突然変異をみたが,その部位はいずれもexon5に集中していた.しかし,突然変異のcodon部位については,小細胞癌と非小細胞癌で一致がみられず,両者は別個のクローンであることが示唆された. 4. 前癌病変検索のテクニック開発の研究も行った.(1)TUNEL法に関して,組織の前固定時間と固定時間の影響をラットの胸腺と脾臓で調べた.直ちに固定した標本に比べ,前固定時間が2時間を過ぎるとラベルされる陽性細胞数が増加し,24時間を越えると組織抽出DNAの電気泳同でラダーパターンが認められた.固定時間自体の長さはTUNEL法に影響しなかった.(2)X染色体遺伝子不活化に基づくクローン性判定を目的として,HUMARA遺伝子解析法の改良に努めた.この方法で,Bowen病の前癌病変とされているbowenoid papulosisには多クローン性が認められ,その前癌性は高くないことが示唆された.
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業 奨励研究(A)
    研究期間 : 1995年 -1995年 
    代表者 : 稲垣 宏
     
    節外性リンパ腫の診断は反応性のリンパ球,間質,および上皮などの混在のため形態学のみでは困難なことが多く,より客観的で正確な診断法が求められている.われわれは小さな生検標本を用いてIgHgeneにおけるrearrangementのPCR解析を行い,多くの胃悪性リンパ腫で分子生物学的診断が可能であることを報告した(Diagn Mol Pathol,4;32-38,1995).本年度はB細胞性リンパ腫に加え,T細胞性リンパ腫のPCR診断手技を確立するとともにこの分子生物学的手法を臨床診断への応用を試みてきたが,形態学とPCR解析の結果が一致しない症例がいくつか認められた.そのなかにリンパ腫様の組織形態を示す胃梅毒と判明した症例を認めたのでこれを第84回日本病理学会(平成7年4月)で発表した.またHuman Pathology誌上に報告予定である(印刷中).このような組織形態を示す胃梅毒は今までに報告がないため以下の2点の証明が必要であった.(1)浸潤しているリンパ球に関しては免疫組織染色とPCR法によりmonoclonalityを証明できず腫瘍的性格を否定し,反応性病変と結論した.(2)蛍光抗体法およびPCR法により胃組織内にトレポネ-マを証明した.従来から用いられている蛍光抗体法は感度が低く,トレポネ-マの検出率は十分ではなかったが,PCR法は非常に感度の高い検査法であり,その特異性に関してもPCR産物を直接シークエンスを行い確認した.以上により胃リンパ腫の鑑別診断として,胃梅毒を考慮する必要があることが証明された.
  • 節外性リンパ腫の診断および解析に対する分子病理学的アプロ-チ
    研究期間 : 1995年 -1995年

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