電子音響音楽の根幹をなす「音色・音響の思想」に着目し、Helga de la Motte-Haber hrsg.Klangkunstによる音楽史「音色」記述や、Denis Smalleyによる、聞く人の選択的聴取に基づく音色・音響の多層性の理論、また、Simon Emmersonが指摘する音響が言語的「意味」を持つための文化共有などを調査し、20 世紀後半から現代までの音色論を通史として論じた。その際、サウンドカルチャー一般と聴取の変遷という、より広い文化史的視座の中で電子音響音楽をとらえ、1940-60年代のピエール・シェフェール発案のミュジック・コンクレートが今日的音響思想の源流として西欧音楽の何を受け継ぎ、どのように後代に受容されたか、という観点も取り入れた。
一方、音色追求の実践的試みとして、いくつかの作曲作品を発表した。なかでも、三つの楽章から成る、管弦楽ためのでは、弦楽器各パートがそれぞれ異なる形でに細動し、絡み合う複数の線の動きで様々な肌触り感を音色感として表現した。短い時間で上下する音高の跳躍でユーモラスな状況を作り、微分音の上に浮遊する空間でソロ楽器が太い線を描くテクスチュアをひとつの音色として措定した。弦のハーモニクス上に消えかかるリズムが擦れるような軋みの和音も、音程を意識させないという点で音色に近づいた。
音声合成プログラム、演奏上演に関するライヴ・インタラクション、通信技術と遠隔コミュニケーション・アプリという三つの面で、新作電子音響音楽の制作を行い、国際コンピュータ音楽会議ICMC、音楽の新インターフェイスNIMEに入選したほか、日本の電子音響音楽教育に関して国際電子音響音楽グループEMSで発表し、また、フランスの音響音楽研究所IRCAMで講演を行った。