日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(C)
研究期間 : 2003年 -2004年
代表者 : 笹野 寛; 伊藤 彰師; 早野 順一郎
心拍変動周波数分析析上で高周波成分として表され、迷走神経活動の変調により生み出される呼吸性洞性不整脈(Respiratory Sinus Arrhythmia:RSA)の生理学的な役割は長らく不明であった。今後必要性が増加する心拍変動解析の向上のため、RSAのもつ肺におけるガス交換効率促進機能を人において検討した。
1994年に共同研究者の早野らが犬における心臓ペーシング、横隔膜ペーシングのRSAモデルにおいて、RSAのガス交換効率促進能を示したが、生理的な状況下、人においてはその機能は証明されていない。その理由は、迷走神経活動の変調が保たれる自発呼吸下の生物において、呼吸および循環に対する純粋な呼吸性洞性不整脈のみの影響を調べることは困難であるためである。すなわち呼吸性洞性不整脈の大きさに影響する一回換気量、呼吸数、CO2分圧は同時に変動するため、個々の影響がガス交換効率に及ぼす影響を検討することができなかった。
われわれは既存の呼吸モニター(Novametrics社製NICOTR)による一回呼吸CO2曲線による解剖学的死腔、肺胞死腔を測定しながら、自発呼吸下に呼吸数、一回換気量、動脈血CO2濃度のうち一つのパラメータのみを変化させ、その変化させたパラメータ単独のガス交換効率改善の影響を調べる実験系を確立できた。
健康成人ボランティア10名で調査した結果、アトロピンによる迷走神経ブロックにより呼吸性洞性不整脈の発生を抑制すると肺における酸素交換効率に加え解剖学的死腔量、肺胞死腔量によって得られる換気効率低下することが明らかにできた。人における呼吸性洞性不整脈のガス交換能効率促進機能を明らかにしたことは、今後、心電図の2情報である心拍変動解析法の向上のために貢献できるものと考える。