日本学術振興会:科学研究費助成事業 特別研究員奨励費
研究期間 : 2007年 -2008年
代表者 : 矢木 宏和
神経系には糖鎖を介した複雑な細胞間相互作用ネットワークが存在し、脳の高次機能発現に関与していると考えられる。本研究では、糖鎖プロファイリング技術を基盤とし、神経に発現している糖鎖を探索することを試みた。前年度までの研究により、モデル動物であるカタユウレイボヤの神経複合体にキシロース含有糖鎖が特異的に発現していることを見出し、そのキャリアータンパク質を同定した。本年度は、このキャリアータンパク質のノックダウンホヤを作成し、その表現系を観察しているところであるが、発生過程の途中においてホヤが死んでしまうため、今だ解析には及んでいない。
一方、このキシロース含有糖鎖はβ1,2-キシロース転移酵素によってその合成は担われていると考えられる。これまでにクローニングされているβ1,2-キシロース転移酵素の遺伝子は、植物由来のもののみであっため、シロイヌナズナのβ1,2-キシロース転移酵素と相同性を持つ遺伝子を探索し、2種類の遺伝子(aer61,aer61b)をホヤゲノムの中に見出した。さらに驚くべきことにホヤと同様に、ヒトをはじめとする高等動物にもシロイヌナズナのβ1,2-キシロース転移酵素と相同性を持つ遺伝子が2種類(aer61、ago61)存在していた。これら遺伝子のマウスの各組織における遺伝子発現量を調べたところ、ago61は脳特異的に、aer61は心臓、肺、脳に発現していることが、明らかとなった。このようにホヤからヒトまでβ1,2-キシロース転移酵素様遺伝子が保存されており、脳特異的に発現していることから、脊索動物の脳神経系においてこの糖鎖が普遍的な高次機能を担っているのではないかと考えている。
キシロース含有N型糖鎖の神経系における機能解明には、さらなる研究が必要であるが、本研究を通じて、この糖鎖が担う新たな分野を見出すことができた。