日本学術振興会:科学研究費助成事業
研究期間 : 2004年 -2006年
代表者 : 真辺 忠夫; 岡田 祐二; 高橋 広城; 山本 稔; 沢井 博純; 松尾 洋一; 舟橋 整
以前より我々は膵癌周囲に広く存在する神経組織と膵癌との相互作用について注目しており、神経組織から分泌される神経栄養因子(GDNF)が膵癌の神経浸潤に対し重要であるとの報告を行ってきた。また、以前より当科では炎症性サイトカインの1つであるInterleukin-1α(IL-1α)と接着因子integrinが膵癌細胞の肝転移、神経浸潤に大きな影響を与えていることを見出してきた。今回の研究の目的は、神経栄養因子や炎症性サイトカインが膵癌の転移・浸潤能にどのように関与しているかを基礎的検討から明らかにすることである。
平成16年には、GDNFやIL-1αがα6β1,α5β1-integrinの発現を増強しており、これらの変化はNF-KB、AP-1などの転写因子の活性化を介して起こっている現象であることを発見した。
平成17年度には膵癌組織におけるGDNFの発現程度は膵内神経組織で強く、RETの発現程度は非癌部膵組織よりも癌部で強く、患者の予後とリンパ節転移に関与することがわかった。
平成18年度には膵癌細胞におけるさらに詳細なシグナル伝達経路の検討、またintegrin関連因子(ILK, FAK)の関与、その発現レベルと膵癌患者の予後との関連につき検討を加えた。ILK活性と膵癌細胞株の浸潤能との関連につき、ILK kinase-inactive、kinase-dead、kinase-hyperactive cDNAをそれぞれ膵癌細胞に導入して検討した結果、ILK活性化と膵癌細胞の浸潤能亢進には有意な関連があり、その際に活性化される細胞内シグナル伝達経路はp38MAPK経路であることを証明した。また、FAKについても同様にsiRNAを用いた検討で、FAK活性化と膵癌細胞浸潤能との間に有意な関連を認めた。臨床検体での検討では、膵癌患者では有意に強くILKが発現しており、独立した予後規定因子となることを証明した。