上島 通浩 (カミジマ ミチヒロ)
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衛生学の研究者です。衛生学とは、医師法第一条に医師の使命として規定される公衆衛生を構成する一学問領域です。その中心テーマのひとつは、環境や労働に起因する疾病の社会や集団を通じた予防で、私の専門は化学物質による健康リスクの解明です。その中でも特に、化学物質の体内取り込み量の評価とその健康影響を中心に研究をしています。
主な研究手法はヒトを対象とした各種の調査、動物実験、環境測定ですが、子どもの健康や発達への影響調査のように、結果が明らかになるまで時間を要する長期プロジェクトも実施中です。広義の公衆衛生学全般への社会のニーズは高く、各種の課題への対応力向上にも力を注ぐとともに、世界的な視点で将来を見据えた取り組みをチームとして展開しています。
【はじめに,目的】
全脊柱撮像より計測される矢状面脊柱骨盤アライメント(SSPA)は,腰痛の素因と関係しているとの報告がある。X線の曝露がなく,簡便に人の外観上から得られる姿勢パラメーターでSSPAを推定する間接測定法が確立できれば,臨床応用のみならず,腰痛予防対策など公衆衛生上の意義も大きい。そこで,本研究では間接測定法確立の第一段階として,代表的な指標である胸椎後彎角(TKA),腰椎前彎角(LLA),仙骨傾斜角(SS),Sagittal Vertical Axis(SVA),Pelvic Incidence(PI)のX線画像の計測を行い,比較基準値となる計測の信頼性検討を行った。
【対象と方法】
名古屋市立西部医療センターにて頚椎症性脊髄症,腰部脊柱管狭窄症と診断され手術を施行した20名(男性11名,女性9名,平均年齢62.0±15.3歳)とした。診療目的で撮影された全脊柱撮像からSchwabらの計測に基づきTKA,LLA,SS,SVA,Legayeらの提唱したPIをacetabular domes methodを用い計測した。画像検査者は理学療法士の男性3名(平均年齢37.3±7.4歳)である。1回目の計測から24時間以上空けたのちに計測順を変更して再度計測した。統計解析はR2.8.1を用い,検査者内・検査者間信頼性を評価するために級内相関ICC1,ICC3を求めた。また各測定の系統誤差を評価するためにBland-Altman解析を行った。信頼性の評価はLandis(1977)の基準に従い,ICC>0.8をExcellentとした。
【結果】
各計測値の1回計測の検査者内信頼性ICC(1,1)は3名ともTKA,LLA,SS,SVAは全て0.8以上であった。PIのICC(1,1)は最大0.89(95%CI:0.74-0.95)から最小0.65(0.31-0.84)となり,検査者毎にばらつきを認めた。PIの2回計測の信頼性ICC(1,2)は0.94(0.85-0.98)から0.79(0.48-0.92)であり,PIの信頼性を担保するには2回以上の計測が必要と示唆された。3名の検査者が1回計測した時の検査者間信頼性ICC(3,1)は,全計測値とも0.87以上であった。Bland-Altman解析は,3名の検査者とも[1回目の測定-2回目の測定]の差(d)の平均に系統誤差は認められず,また,Bland-Altman Plotの偏回帰係数(β)においても比例誤差は認められなかった。
【結論】
TKA,LLA,SS,SVAは,任意1名の検査者が1回計測することで十分な検査者内・検査者間信頼性を担保している。一方,PIは検査者1名でよいが検査者内信頼性を高めるには複数回測定が必要である。また系統誤差や比例誤差も認めず,検査者の習熟に影響を受けないことが確認できた。