日本学術振興会:科学研究費助成事業
研究期間 : 2002年 -2003年
代表者 : 山田 和雄; 谷川 元紀; 相原 徳孝; 間瀬 光人
白質損傷後の脳機能再生を図るため、遺伝子導入したシュワン細胞を脳内移植し、脳機能変化をみることを本研究の主眼として始めた。本年度は白質損傷モデルとして、脳梁損傷モデル、凍結損傷による脳梁機能障害モデル、虚血性脳梁損傷モデルを用いて上記試みの準備研究を進めた。まずラット凍結脳損傷モデルを用い、白質オリゴデンドロサイト活性の指標として、MSP遺伝子と蛋白の発現を検討した。MSP(Myelencephalon-specific protease)は新規のセリンプロテアーゼで、白質のオリゴデンドロサイト、ミクログリア、神経細胞に多く存在し、ミエリンの代謝に関与することが知られている。その結果、凍結損傷後1-3日して損傷直下の白質にMSPmRNAと蛋白陽性のオリゴデンドロサイトが出現し、浮腫の進展に応じて、損傷遠隔部位の白質まで、陽性細胞が出現することを確かめた。また、mRNAと蛋白の発現は同時に並行して変化することも確かめられた。ついでラット脳虚血モデルを用いて、MSPの発現を検討すると、虚血周囲の白質に虐血後1-3日して発現することが認められた。これらの所見から、各種の白質損傷モデルでは損傷に応じてオリゴデンドロサイトの活性化がおこり、これが損傷後のミエリン修復に関与することが明らかとなった。同時にbrain derived neurotrophic factor (BDNF)およびinterferon gammaを組み込んだレトロウィルスベクターを作成し、それを用いてWisterラットから採取したシュワン細胞に遺伝子導入した。遺伝子導入されたシュワン細胞をジェネシチン(G418)でセレクションをかけながら、シングルコロニーを採取してシングルクローンとした。そうして得られた遺伝子組み換えシュワン細胞のシングルクローンのうち、増殖などに問題の無かったものを選択して増殖させ、移植の準備段階は整えることができた。研究期間は終了してしまったが、次の段階として作成した遺伝子組み換えシュワン細胞をラット脳梁損傷モデルに移植するなど、今後も研究を継続していく予定である。