日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(C)
研究期間 : 2016年04月 -2021年03月
代表者 : 美作 宗太郎; 大谷 真紀; 大島 徹
本研究は,受傷後早期の打撲傷における局所的な熱感を可視化して客観的に捉え,経時的に皮膚温の変化を追うことで,その有効性を検討するものである.
研究計画に基づき,健常な被験者が日常生活で転倒するなどして損傷を負った場合に,赤外線サーモグラフィーカメラFLIR T440(FLIR Systems, Inc. USA)を用いて損傷を撮影し,同時に可視光線下でも撮影した.損傷の受傷から治癒まで2~8日間に亘り,入浴・運動後など皮膚温が上昇するタイミングを避けて撮影した.損傷部だけでなく非損傷部の皮膚も写し込むことで,個体差,身体部位の差,更に室温などの環境条件の影響を除外した.撮影した熱画像は,専用ソフトウエア(FLIR Tools)上で損傷部と非損傷部の皮膚温を5か所ずつ測定し,それぞれの平均値を求め,両者の温度差を算出して検討した.
皮膚温のため環境条件の影響が大きく損傷部と非損傷部ともばらつきが大きいが,受傷当日の損傷部と非損傷部の温度差は平均で1.17℃,最大で2.68℃であった.また,損傷部の皮膚温は,治癒に向かうにつれ経時的に温度差が縮小する傾向が観察された.軽度な打撲傷では,受傷後早期においても損傷部と非損傷部の温度差は殆どみられず,経時的な変化も乏しかった.
赤外線サーモグラフィーカメラは,通常のカメラによる写真撮影と同様に誰にでも簡単に使用できる.また,測定機器を皮膚損傷部に接触させる必要が無いため非侵襲で,皮膚温を色調の違いで可視化できるため,損傷による熱感の証拠化に有効であることが確認された.但し,研究に用いた赤外線サーモグラフィーカメラの温度分解能は0.045℃(30℃の場合)と極めて鋭敏で,湿布の使用や皮疹などによる僅かな温度差も明瞭に捉えるため,虐待の診断などの実務応用には注意が必要と考えられた.