日本学術振興会:科学研究費助成事業
研究期間 : 2020年04月 -2023年03月
代表者 : 尾崎 智也
本研究は、未だ有効な治療法のない脊髄損傷に対して、糖鎖結合分子が治療薬となり得るか評価するものである。中枢神経系の神経軸索は、傷つくと先端部にdystrophic endballと呼ばれる異常形態をとり、伸長不全に陥る。この損傷軸索に表れる表現型の原因分子は糖鎖コンドロイチン硫酸(CS)であることが知られている。これまでに申請者らは、dystrophic endballを損傷後の神経軸索が陥る病態であると考え、dystrophic endballについて詳細に解析を行い、その形成にはオートファジーの中断が関与することを見出した(Sakamoto*, Ozaki* et al., Nat. Chem. Biol. 2019 *equal contribution)。損傷した軸索についての理解が進む中で、CSの阻害効果を抑え、軸索の再生や再伸長を促すことに関する研究は多くなく、脊髄損傷など損傷軸索に対する治療法にむすび付いた研究はまだない。
本研究では、既存薬でありCS鎖に結合するペプチド(特許申請検討中のため、CSBPとする)を使い、CSPGの軸索伸長阻害効果を抑えることで、軸索再伸長を促し脊髄損傷を治療できるかどうかを吟味している。これまでに、dystrophic endballを培養できるin vitroモデルを使い、CSBPの効果を確認してきた。CSBPをdystrophic endballに処理すると、オートファジーの中断が解消され、軸索は伸長を再開させた。この結果をもとに、治療実験行い、これまでに、CSBPが、マウスにおいて脊髄損傷により著しく低下した後肢運動機能を改善させることを観察している。