成体大脳皮質傷害部へ向かう新生ニューロンの移動機構解明と再生誘導法の開発
日本学術振興会:科学研究費助成事業 特別研究員奨励費
研究期間 : 2016年04月 -2019年03月
代表者 : 松本 真実
哺乳類脳の脳室下帯では、成体でも神経幹細胞から継続的に新生ニューロンが産生されている。これらの新生ニューロンは、鎖状の細胞塊を形成しながら移動し、嗅球で成熟ニューロンに分化する。一方で、脳傷害後には、脳室下帯の一部の新生ニューロンが鎖状で傷害部へ向かって移動し、失われたニューロンを再生することから、鎖状の新生ニューロン移動制御が成体脳内のニューロン移動に重要だと考えられる。また、ニューロン移動の調節には、微小管を制御する中心体や、細胞外シグナルを受け取って細胞内に伝達することが知られている一次繊毛が重要な役割を果たすと考えられている。しかし、成体脳を移動する新生ニューロンの接着や中心体、一次繊毛の制御については不明である。そこで本研究では、成体大脳皮質の脳梗塞モデルを用い、成体脳内における新生ニューロンの移動機構を解明することを目的とした。
新生ニューロンが成体脳内を移動する際には、鎖状の細胞塊を形成しながら移動することから、新生ニューロン間の細胞接着が重要であると考えられた。そのため、新生ニューロンの細胞間接着制御を調べることは、本研究課題の目的である新生ニューロン移動機構の解明につながると考えられる。そこで、当該年度においては、細胞間接着分子に着目し、正常脳と傷害脳内を移動する新生ニューロンにおける細胞間接着分子の発現を調べた。さらに、中心体や一次繊毛の詳細な構造や細胞間接着に関する構造の詳細を調べるために、電子顕微鏡解析を行った。これらの結果から、成体脳内を移動する新生ニューロンにおいて、中心体や一次繊毛が重要な役割を担う可能性が示唆された。また、鎖を形成する新生ニューロンの細胞間接着の制御機構に今回着目した細胞間接着分子が重要な働きをしていることが示唆された。