日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(B)
研究期間 : 2019年04月 -2022年03月
代表者 : 松永 民秀; 岩尾 岳洋
ヒトiPS細胞の小腸上皮細胞への分化誘導法の確立として高分子化合物の影響を明らかにするために、セルロース、キチン及びジェランガム誘導体であるFP001及びFP003を腸管上皮細胞への分化誘導時に添加し、マーカー遺伝子の発現を解析することによって分化に対する影響を検討した。その結果、FP001及びセルロースの添加によりVillin1、 MDR1、PEPT1、CYP3A4及びPXRの発現上昇が認められた。また、FP001添加で小腸上皮細胞マーカー、薬物トランスポーター、薬物代謝酵素のmRNA発現が有意に増加した。さらに、Villin、PEPT1、SGL1、P-gp及びBCRPのタンパク質発現並びにCYP2C19活性も有意に増加することを明らかにした。FP001添加で細胞数の増加が認められたが、細胞周期の変動解析より細胞増殖に影響しないことが示唆された。また、老化細胞の割合とIntegrin α5が上昇したことから、細胞のアノイキスを抑制することが示唆された。FP001は、細胞・マトリクス間接着の喪失を制御し、細胞死を抑制することで、結果として小腸上皮細胞の成熟化と細胞数の増加をまねくことが示唆された。また、セルロースやジェランガムは難消化性の多糖類であり、消化管内容物として存在することから、in vitroにおいても腸管上皮細胞の機能亢進・維持に効果があることが示唆された。
腸管オルガノイドについては、これまで嚢胞状の形態であったものが、培養法の検討により浮遊培養においてもBudding と呼ばれる複雑な組織を創出することが可能となった。また、マーカーの発現及び機能も嚢胞状のものと比較して高かったことから、高機能な腸管オルガノイドの作製が可能となった。
免疫細胞としてマクロファージとの共培養系について検討を行っており、炎症性サイトカイン等の影響については今後検討する予定である。