研究者データベース

山川 和弘 (ヤマカワ カズヒロ)

  • 医学研究科神経発達症遺伝学分野 教授
Last Updated :2024/03/30

研究者情報

学位

  • 医学博士(大阪大学)

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科研費研究者番号

  • 30241235

ORCID ID

J-Global ID

プロフィール

  • 略歴:

    昭和59年(1984)3月 京都大学理学部 卒業

    昭和59年(1984)4月〜昭和63年(1988)12月 東洋紡総合研究所・研究員

    平成1年(1989)1月〜平成6年(1994)1月 癌研究会研究所・生化学部(中村祐輔部長)・研究員

    平成1年(1989)1月〜平成4年(1992)3月 大阪大学医学部細胞工学センター・研修生

    平成4年(1992)5月 大阪大学医学部 医学博士 取得

    平成6年(1994)2月〜平成9年(1997)9月 米国UCLA医学部・遺伝医学部門(Julie Korenberg教授研究室)・博士研究員

    平成8年(1996)3月〜平成9年(1997)9月 米国UCLA医学部・遺伝医学部門・客員助教授

    平成9年(1997)10月〜平成21年(2009)12月 理化学研究所・脳科学総合研究センター(BSI)・神経遺伝研究チーム チームリーダー(研究室長)

    平成20年(2008)4月〜令和元年(2019)9月 埼玉大学連携教授(兼務)

    平成21年(2009)12月〜平成30年(2018)3月 理化学研究所・脳科学総合研究センター(BSI)・神経遺伝研究チーム シニアチームリーダー(研究室長)

    平成30年(2018)4月〜令和2年(2020)3月 理化学研究所・脳神経科学研究センター(CBS)・神経遺伝研究チーム チームリーダー(研究室長)

    令和元年(2019)10月〜現在 公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科 脳神経科学研究所 神経発達症遺伝学分野 教授


    受賞歴など:

    平成22年(2010)3月 財団法人てんかん治療研究振興財団 研究褒賞 受賞


    所属学会:

    日本てんかん学会(理事・長期計画委員会/基礎研究推進委員会委員)、日本人類遺伝学会、日本神経科学会、日本小児神経学会、北米神経学会

研究キーワード

  • 原因遺伝子   知的障害   自閉症   てんかん   

研究分野

  • ライフサイエンス / 精神神経科学
  • ライフサイエンス / 胎児医学、小児成育学
  • ライフサイエンス / 医化学

研究活動情報

論文

MISC

共同研究・競争的資金等の研究課題

  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 2020年04月 -2023年03月 
    代表者 : 山川 和弘
     
    電位依存性ナトリウムチャネルαサブユニット2型Nav1.2をコードする遺伝子SCN2Aは自閉スペクトラム症や統合失調症などの神経発達症を有する患者で最も頻度高く新生ヘテロ機能喪失変異が見られる遺伝子である。しかし、Scn2aヘテロ欠失マウスは、新規環境下における過活動、不安行動の亢進と恐怖除去障害などの異常は示すが、他者への興味の喪失などの社会性異常などははっきりと見出されない(Tatsukawa et al., Mol Autism 10:15, 2019)。Scn2a遺伝子の全身ホモ欠失マウスは新生児期致死である。そこで、限局した脳部位でのScn2aホモ欠失により、生存可能なマウスモデルを作出し、それらにおける社会性行動異常の検出やScn2aヘテロ欠失マウスで既に見られた行動異常の再現などによる責任脳領域の同定を目指す。2021年度は、ホモfloxed-Scn2aマウス(Ogiwara et al., Commun Biol 2018)のCreリコンビナーゼを組み込んだアデノ随伴ウイルス(AAV-Cre)を打ち込むことにより社会性行動異常やプレパルス抑制の亢進などの行動異常の傾向を示すことが判明した脳領域について、更にその神経核の細胞種、上流および下流の神経核の探索を進めた。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 2017年04月 -2022年03月 
    代表者 : 貫名 信行; 山川 和弘; 宮崎 晴子
     
    中枢神経系の無髄神経の分布に関してNav1.2をマーカーにして検討を行った。脳梁・分界条の線維に無髄が存在することを免疫電顕を含めて確認した。その起始細胞を大脳皮質4層神経細胞に蛍光タンパク質を発現するマウスを用いて検討し、一部Nav1.2抗体の染色性と一致することを同定し、無髄神経の起始細胞が存在することが示唆された。 Nav1.2のコンディショナルノックアウトマウスについては線条体中型有棘神経細胞特異的なScn2aコンディショナルノックアウトマウスを用いて行動試験を行った結果、活動性低下、不安の減少、後肢のアタキシア様運動異常および社会的新奇性に対する嗜好性の軽度な不全が観察された。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 2013年05月 -2018年03月 
    代表者 : 山川 和弘; 鈴木 俊光
     
    若年ミオクロニーてんかん(JME)は最も頻度の高いてんかんである。本研究において我々は、原因遺伝子として腸管細胞キナーゼをコードするICK遺伝子の同定、疾患変異が神経前駆細胞の移動を阻害すること、Ick欠損マウスがイソフルラン(吸入麻酔薬)により強直間代発作を引き起こすことなどを明らかにし報告した(Bailey et al, New Eng J Med 378:1018-28, 2018)。ICKは以前に我々が原因遺伝子として報告したFFHC1と同様に、細胞分裂時の微小管生成、細胞増殖に関わることから、共通のメカニズムを通しててんかんを引き起こしていると考えられた。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 2010年 -2012年 
    代表者 : 山川 和弘; 下畑 充志; 天野 賢治; 浅田 幸江
     
    本研究では、高組み替え効率を有するトリ細胞を利用してヒト21番染色体(HC21)に相同なマウス16番染色体(MC16)の部分トリソミーを有するモデルマウスを高効率に作成し、HC21相同MC16上の主要責任遺伝子を同定し、それらを通してダウン症精神遅滞の発症機序を明らかにすることを目的とした。本研究の結果、1)HC21相同MC16部分染色体(Ts1Cjeセグメント相当)を持つトリ細胞内の作成に成功した。2)HC21相同MC16部分染色体トリ細胞内のHC21相同MC16部分染色体を、CHO細胞を介してマウスES細胞に導入することに成功した。3)当該ES細胞を用いてマウスを作製した。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 2004年 -2008年 
    代表者 : 兼子 直; 和田 一丸; 岡田 元宏; 古郡 規雄; 清水 俊夫; 小島 俊男; 上野 伸哉; 福澤 雅志; 中川 和子; 廣瀬 伸一; 山川 和弘; 佐藤 敬; 辻 省次; 桑野 良三; 荒木 喜美; 若林 孝一; 若林 孝一; 佐藤 敬
     
    (1)各種てんかん類型の責任遺伝子を同定し、モデル動物の基準を満たす世界初のヒトてんかん遺伝子導入モデル動物作出に成功した。このラットを用い、分子病態を解析し、病態補正の可能性、その臨界期の存在を明らかにし、根治療法開発への突破口を開いた。(2)遺伝情報から最適の抗てんかん薬(AED)の種類と至適量を選択する個別化治療開発の基本フレームを提案した。(3)てんかんの遺伝子診断用DNA chip(プロトタイプ)を世界に先駆けて開発した。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 2006年 -2007年 
    代表者 : 山川 和弘; 山形 哲司
     
    重症乳児ミオクロニーてんかん(SMEI)は電位依存性ナトリウムチャネルαサブユニット1型遺伝子SCN1Aの変異により引き起こされる。先頃我々が報告したSCN1AノックアウトSMEIモデルマウス(Ogiwara et al., J Neurosci 22:5903-5914,2007)では、重篤なてんかん発作を示し、ホモ欠失マウスは約2週間で死亡する。このマウスでは分断された蛋白の発現は確認されず、このことから症状は分断された蛋白のdominant-negativeな(有害な)効果によるものではなく、haploinsufficiency、すなわち正常蛋白の量が半分になることが症状の発現に繋がっていることが示唆された。また、大脳皮質のスライス培養標本において抑制性介在ニューロンのナトリウム電流が大きく低下していること、電流低下は興奮性ニューロンでは見られないことなどを見いだしている。更には、Nav1.1がパルブアルブミン陽性抑制性神経細胞の軸索(起始部および遠位部)に多く発現し、興奮性細胞ではほとんど見られないことを明らかにした。このマウスではB6系統をバックグラウンドとするものと129をバックグラウンドとするものの間で症状の重篤度に差が見られ、症状を修飾する因子(遺伝子)の存在が示唆された。本課題において我々は、国立遺伝学研究所の城石俊彦教授より譲り受けたMSMマウスと、SMEIマウスモデルを掛け合わせ、F1へテロマウスの死亡率に顕著な差を見いだした(雄で死亡率が高い)。このことにより、X染色体上に修飾因子の存在が示唆された。更に世代を重ね、また並行して城石俊彦教授らにより開発されたコンソミックマウス(1種の染色体のみ別系統由来)を用いることにより、X染色体上修飾因子の存在領域の絞り込みに成功した。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 2004年 -2005年 
    代表者 : 山川 和弘; 荻原 郁夫
     
    電位依存性ナトリウムチャネルでは、ナトリウムチャネルαサブユニット1型蛋白(NaV1.1)をコードするSCN1A遺伝子と、β1サブユニットをコードするSCN1B遺伝子のそれぞれで、比較的軽症でてんかん発作のみを主に示す特発性てんかんの一種(熱性痙攣プラス: GEFS+)におけるミスセンス変異が報告されている。また最近では、難治で重い精神発達障害を特徴とする乳児重症ミオクロニーてんかん(SMEI)でもSCN1A変異(特にナンセンスなどの分断変異)が同定され、多くの興味を引いている。我々は以前(2001年)、熱性痙攣プラス類似例の発症につながるナトリウムチャネルαサブユニット2型遺伝子(SCN2A)のミスセンス変異を世界で初めて報告した。今回の研究課題において、我々は一昨年(Kamiya et al.,2004)、知能障害を伴う難治で重篤なてんかんにおいてSCN2Aのナンセンス変異(R102X)を発見し、更にホールセルパッチクランプ法などにより、この変異によって分断された蛋白が残された正常チャネル蛋白の機能に影響を及ぼす可能性があることを見いだし、論文として報告した。昨年(2005)については、SMEIの亜型であるICEGTCにおいて見いだされた変異について電気生理学的解析を行い報告した(Rhodes et al.,2005)。また、SMEI変異め家系例について報告した(Kimura et al.,2005)。新規GEFS+変異についても報告した(Nagao et al.,2005)。更に、SCNIAノックインマウスの作成に成功し、痙攣を引き起こすことを確認した(論文未発表)。SCN2A-R102Xナンセンス変異を持つノックインマウスの作成については、ノックインベクターコンストラクトを完成し、マウスラインの作成を引き続き試みている。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 2002年 -2003年 
    代表者 : 山川 和弘
     
    ラフォーラ病は、全身性痙攣を初発症状として6歳から18歳で発症し、刺激誘起性ミオクローヌス、欠神発作、大発作、痴呆、小脳失調症などの症状を特徴とするてんかんで、神経細胞内や心筋、肝細胞、皮膚の汗腺上皮細胞、骨格筋に検出されるポリグルコサンを主体とするラフォーラ小体が本疾患の特異的所見として知られる。症状は進行性であり、発症後10年以内に死亡する。今のところ有効な治療法は無い。脳、心臓、肝臓、骨格筋、腎臓など広い範囲の組織に発現が認められる遺伝子EPM2Aにミスセンス変異、ナンセンス変異、フレームシフト、欠失変異など複数の疾患変異が報告され、EPM2Aがコードする蛋白はラフォーリンと名付けられている。我々は以前、ラフォーリン蛋白がdual-specificity phosphatase活性を持つこと、細胞内でポリリボゾーム画分に存在すること、疾患変異を有する蛋白が異常な胞状構造を形成しそこに蓄積することなどを明らかにしている。 本課題において我々は、EPM2Aのalternativeスプライシングがラフォーリンの細胞内局在を左右すること、ラフォーラ病患者が早期発症痴呆を伴う型と伴わない型に分けられ、さらにEPM2A遺伝子エキソン1の変異と早期発症痴呆併発型とが関連すること、ラフォーリンがNifU-likeドメインを有するHIRIP5蛋白と結合することなどを明らかにし、論文として報告した。また、我々はEPM2Aノックアウトマウスを作成し、このマウスがラフォーラ病患者と同様に、神経細胞変性、脳波異常に加え、ラフォーラ小体を蓄積することを見いだし報告した。これらの知見は、ラフォーラ病発症メカニズムの理解、治療法の開発に大きく役立つものである。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 2002年 -2003年 
    代表者 : 菅原 隆; 山川 和弘
     
    乳児重症ミオクロニーてんかん(SMEI)は、0歳児の半ばに発症し、日或いは週単位の全般性強直間代発作や易変性ミオクロニー・側交代性片側間代発作等を有する重篤なてんかんである。2001年にClaesらは、7人の患者全例の電位依存性Naチャネルα-サブユニットのタイプIに遺伝子異常があることを報告した。他の調査でも非常に高い割合(70%以上)で遺伝子異常が発見され、病因遺伝子として認められた。中枢神経系の神経細胞体に発現する電位依存性Naチャネルの大多数を占めるサブタイプIのナンセンス変異やフレームシフト等の遺伝子異常は、チャネル機能を著しく欠損させ、小児期の精神運動発達に大きな影響を及ぼすと容易に推定される。しかしながら発作を誘発するメカニズムは明らかではなく、最初に遺伝子異常がもたらすチャネル機能の変化を調べる必要があった。 我々は、ライブラリースクリーニング等で採取した全長cDNAをベクターに組み込み、mutagenesis法を用いて遺伝子変異を持つナンセンス変異3種類;ミスセンス変異3種類、計6種類の変異チャネルを作成した。この変異チャネルをヒト胎児細胞に発現させ、機能異常について調べた。 パッチクランプ法を用いた電気生理学的な実験では、6種類の変異全てがNa^+電流を大きく減少させる効果を持つことを世界で初めて明らかにした。これは、同じ電位依存性Naチャネルα-サブユニットのタイプIに遺伝子異常が報告されている熱性痙攣プラスを伴う全般てんかん(GEFS+)でいわれているNa^+イオンの過剰流入と逆の変化である。この違いがSMEI特有の症状である精神運動発達遅滞や薬剤に対する耐性の誘因であるということが推定される。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 2000年 -2002年 
    代表者 : 廣瀬 伸一; 兼子 直; 山川 和弘; 満留 昭久; 和田 一丸; 杉山 博之
     
    中枢神経発現イオンチャネルを対象とする研究法により、我々が設立したてんかん患者遺伝子バンクより以下の発見を行った。 広汎性てんかん熱性けいれんプラスII型で脳内Na^+チャネルSCN1Aの新規遺伝子異常2つを発見した日本人の優性遺伝てんかん熱性けいれんプラスの発症に、世界に先駆け、Na^+チャネルSCN2A遺伝子が関与していることを発見した。この変異はNa^+チャネルのinactivationを遅延させ、Na^+イオンの流入が増すことを示した。これは、変異により、Na^+チャネルがより電気的により興奮しやすくなることを意味し、てんかんの興奮性の昴進と良く一致した。乳児重症ミオクロニーてんかんで脳内Na^+チャネルSCN1Aの遺伝子異常を計34ヶを44人の患者で発見した。その内容は以前報告されたものとは異なり、多くのミスセンス変異が存在することが分かった。これらとは並行して、ラット胎仔脳cDNAライブラリーから、上記ヒト遺伝子に相当するラットKcnq2,Kcnq3,Chrna4,Chrnb2,Scn2a cDNAのクローン化を完了した。これを利用し、CHRNA4の遺伝子異常(変異により、アセチルコリンの感受性は変わらないものの、deactivationが早期におこり、電気的興奮がよわまる)によるチャネル異常を細胞レベルで明らかにした。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 2000年 -2002年 
    代表者 : 兼子 直; 満留 昭久; 佐野 輝; 辻 省次; 伊藤 正利; 山川 和弘; 中村 祐輔; 大沼 悌一
     
    1 Severe myoclonic epilepsy in infancy (SMEI)の責任遺伝子としてNa+イオンチャネルSCN1Aにおける多数の変異(ナンセンスミュテーシヨン、フレームシフト、ミスセンスミュテーション)を発見し、GABA-A受容体γ2サブユニットの変異(GABRG2)も関連することを発見した。 2 常染色体優性夜間前頭葉てんかんで発見した遺伝子CHRNA4(Ser284Leu)機能を解析し、この変異によりAChに対するdesensitizationが速まることを見いだした。 3 良性家族性新生児けいれんの責任遺伝子CKNQ3についてKCNQ2の新たな変異を同定したが、この病態として生直後には興奮系のglutamateが機能しているが、抑制系であるGABAは機能していない。そのためM-currentを産生するKCNQ2、KCNQ3に変異があると発作が起こり、生後数週間してGABAが抑制機能を発揮し出す段階で発作が消退するという機序を見いだした。 4 Juvenile myoclonic epilepsyの責任遺伝子が6p12に存在することを確認し、その候補遺伝子を同定した(投稿中)。 5 Lafora病の遺伝子EPM2Aの機能解析を行い、典型例はエクソン4に存在する変異が、非典型例ではエクソン1に存在する変異が主に関与することを明らかにし、さらにlaforinのcarbohydrate-binding domainとdual phosphate domainのそれぞれ異なった役割を明らかにした。 6 我々がSMEIに見いだした変異は患者の60%以上を説明するが、他の遺伝子の関与も否定できないため、熱性けいれん遺伝子探索と共にゲノムワイドスキャンを近く開始する。発見したヒト遺伝子変異を組み込んだタランスジェニックラットの機能は解析中である。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 1991年 -1993年 
    代表者 : 土屋 永寿; 河嶋 和子; 井内 康輝; 高橋 隆; 山川 和弘; 下里 幸雄
     
    1.肺癌発生機序に関する成果として、(1)肺癌株化細胞において第3染色体短腕の共通欠失領域3p21.3-22内に数Mbのホモ欠失領域を同定し、この領域より複数の癌抑制遺伝子候補のcDNAを単離した。そのなかには、細胞接着インテグリン分子の新しいサブユニット遺伝子も含まれており、現在これらの遺伝子につきヒト肺癌例における変異の有無を解析中で、真の癌抑制遺伝子同定もまじかいものと思われる。(2)肺癌の癌抑制遺伝子として、RB,p53,および染色体3p上の遺伝子以外に、新たに染色体9q上に扁平上皮癌の、8q上に腺癌の発生増殖と関係する癌抑制遺伝子の存在が示唆された。(3)気道上皮の分化、増殖にはビタミンAが深く関わっていることが明瞭となり、血清無添加培養による化生の誘導にもビタミンAの関与が推察された。(4)気道異型上皮の遺伝子変異の解析は、マスタードガス障害者例のような長期ホルマリン固定材料では困難であるが、最近のホルマリン固定手術例では可能なことが明かとなった。(5)アスベスト量と発癌の間には関連が認められた。 2.癌細胞の特性に関する成果として、(1)肺癌の悪性度はp53遺伝子変異の有無、L-mycのRFLP、3pの欠失、クララ細胞分泌蛋白の発現などど関係しており、これらの遺伝子変異や蛋白質発現の検索が、がんの早期診断、術後患者における高危険群の同定、治療方針の選択などに有用である可能性が示唆された。(2)HuD抗原が小細胞癌の診断マーカーとして有効か、その発現量が小細胞癌の臨床病理学的特異性と相関するか、などに関してはさらなる検索が必要がある。(3)クララ型と 型腺癌では、クララ細胞分泌蛋白陽性例が陰性例よりも予後が良好であった。 3.L-myc遺伝のタンパク質翻訳開始部位を標的としたアンチセンスDNA分子による細胞増殖の抑制は、mRNAの発現抑制ではなく、L-mycタンパク質翻訳過程の制御によるものと考えられた。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 1990年 -1993年 
    代表者 : 中村 祐輔; 江見 充; 堀井 明; 山川 和弘
     
    APC遺伝子の発癌過程における役割を調べるために家族性大腸腺腫症(FAP)患者に生じた多数の腺腫におけるAPC遺伝子の体細胞レベルでの異常を検索した。腺腫を大きさや異型度にしたがって3群に分類して比較したところ、APCの変異はいずれの群においても同程度に認められたことから、APCのtwo-hit変異が腫瘍の発生の初期段階において非常に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。また、同一患者の10個の腫瘍に認められた変異はすべて異なっていたにも関わらず、わずかに15塩基の領域(APCの全翻訳領域は8529塩基)に集中していることや正常APC遺伝子を含む染色体欠失が特定の個人にのみ認められたことから、体細胞での変異はランダムに生ずるのではなく、何らかの機序に左右されていることが示唆された。また、胃においても腺腫の段階でAPC遺伝子の異常が認められ、胃癌の発生段階においてもAPCの不活性化は早期の段階で重要な役割をはたしているものと考えられる。APCに関しては、さらに、FAP患者の発症前診断に利用するため、PCRにて簡単に診断できる12システムを確立した。このいずれかの系を用いることによってFAP家系の約40%が診断可能となった。第8染色体短腕のp21.3-p22領域にある大腸癌・肝癌・肺癌の発生・進展に関与する癌抑制遺伝子については遺伝子を約600kbの範囲に絞り込みその領域からエキソントラッピング法によってすでに50個近い断片を単離しており癌における再構成や変異の有無を検索している。第3染色体p21.3領域の肺癌・腎癌・卵巣癌・子宮癌に関与する癌抑制遺伝子についても約900kbの領域に限局化し、この領域から複数の候補遺伝子を単離している。乳癌についても第17染色体q21.3から2症例において再構成のおこっているcDNA(MDC遺伝子)を単離した。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 1991年 -1992年 
    代表者 : 土屋 永寿; 鈴塚 五郎; 高橋 隆; 横田 淳; 山川 和弘; 下里 幸雄
     
    A.肺癌発生機序に関する成果として、1)肺癌の第3染色体短腕(3p)の共通欠失領域3p21.3-3p22にマップされた2つのコスミドマーカーにより肺癌株化細胞でホモ欠失領域を検出した。これにより同領域の標的癌抑制遺伝子の単離は近い。2)RB遺伝子及びp53遺伝子を各々の遺伝子に異常を持つ肺癌株化細胞に導入実験した結果、正常のRB遺伝子、p53遺伝子にのみ増殖抑制効果があることを確認した。3)L-myc遺伝子に対するアンチセンスDNAを合成し小細胞癌株に対する増殖効果を検討した結果、L-myc俗伝子発現制御が株化細胞の増殖を制御すること、その作用部位がL-myc遺伝子の転写過程より後ろであることを明らかにした。4)脱上皮器官移植実験により、vitaminA欠乏時出現する化生性変化の細胞発生を明らかにし、またvitamina欠乏の4NQO誘発mouse肺腫瘍発生への影響を明らかにした。B.癌細胞の特性に関する成果として、1)肺癌原発巣とリンパ節転移巣のヘテロ接合性の消失の比較により肺癌転移抑制遺伝子の存在の可能性が示唆された。2)ホルマリン固定パラフィン包埋組織の癌組織や微小な非癌部粘膜上皮病変から、p53遺伝子異常の検索が可能であることをしめした。3)小細胞癌や扁平上皮癌ではテロメア長の変化が細胞増殖の指標になることが示唆されたが、腺癌では細胞増殖の指標にはならなかった。4)肺癌切除例でras遺伝子やp53遺伝子に変異を有する群では有意に予後不良であること、またTGF高発現群は有意に予後良好であることを示した。5)NCAMはヒト肺癌組織においても神経内分泌腫瘍の形態診断の助けとして有用なマーカーであることが確認された。6)クララ細胞様腫瘍組織形態とCC10(クララ特異的蛋白)の発現がよく相関し、クララ細胞が肺腺癌の発生母細胞の一つである可能性が示唆された。7)アスベストとベンツピレン投与によりハムスターに発生した肺腫瘍は異型度の増加につれAgNORの個数が優位に増加した。
  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業
    研究期間 : 1990年 -1992年 
    代表者 : 中村 祐輔; 谷上 信; 山川 和弘; 堀井 明; 佐藤 孝明
     
    遺伝性大腸癌の1種であり、数千ものポリープが生じ大腸癌が多発する家族性大腸ポリポーシス症(FAP)の原因遺伝子(APC遺伝子)を昨年度単離した。この2843アミノ酸からなる蛋白の金翻訳領域について150例のFAP患者における異常を検索し、97例についてのAPC遺伝子の変異を明らかにした。6例のミスセンス変異を除く91例は蛋白の合成を中断する変異であり、このうち3分の2は塩基の挿入・欠失によるフレイムシフトによって起こっていた。この情報をもとに100%確実な発症前診断法を確立した。これによって、正常と診断された人は、頻回に検査を受ける必要がなくなるだけでなく、病気になるのではとの不安から解放されるようになった。また、不幸にして異常遺伝子を受け継ぎ、将来、発症すると診断された人でも、リスクを知ることによって確実に早期発見・治療を行うことによって、患者を癌死から救うことにつながるものと期待される。さらに、APC遺伝子が一般に見られる散発性の大腸のポリープや癌においても高頻度に異常を起こしていることを明らかにし、この遺伝子の異常が大腸癌発生の非常に初期の段階で重要な役割を果たしていることを明らかにした。他の癌におけるAPC遺伝子の関与の有無を調べるため、胃癌・肺癌・肝癌・腎癌・膵癌における異常を検索したところ、肺癌・肝癌・腎癌・では異常は検出されなかったが、腸上皮化生を伴う胃癌や膵癌においては変異を起こしていることが明かとなり、APC遺伝子の異常が消化管の腺癌に共通したものであることが示唆された。乳癌に関しては、多数の乳癌症例における染色体欠失を詳細に調べることによって第11染色体の短腕と第17染色体の短腕の欠失が乳癌のリンパ節転移に強く相関していることを明らかにするとともに、第17染色体長腕に存在している遺伝性乳癌の原因遺伝子を約2、000kbの領域にまで限局することができた。

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