奥野 友介 (オクノ ユウスケ)
|
[1] EBウイルス関連難病・悪性疾患の病態解明と[2] 希少がん・希少難病の原因解明・治療法開発 に取り組んでいます。病態解明に留まらず患者の治療まで結びつけることを重視しており、1種類の白血病に対しては根治療法も開発しました。
[1] EBV関連難病・悪性疾患の病態解明(2013年~現在)
EBVとその関連疾患の制圧に向けて、ヒトゲノムとウイルスゲノムの統合的な網羅的遺伝子解析とスクリーニング研究を遂行しています(Murata T, Okuno Y [責任著者], Reviews in Medical Virology 2020;30(2):e2095、Kimura H, Okuno Y [2/5人目], Front Microbiol 2021;12:667968)。2013年頃より、CAEBVに対してヒトゲノム・ウイルスゲノム両方の網羅的遺伝子解析を遂行し、この疾患におけるEBV感染T・NK細胞が、DDX3X遺伝子変異等を獲得して、悪性疾患として振る舞うことを示しました。加えて、T細胞とNK細胞の両方にEBVが感染している症例では、両細胞に共通の体細胞変異が存在していたことから、リンパ系の前駆細胞にEBVが感染する可能性を示しました(Okuno Y, Nature Microbiology 2019;(3):404)。
上記の研究では、EBV関連血液悪性疾患のウイルスゲノムに生じる大領域の欠損も発見され、この欠損がウイルスの再活性化を通じて感染細胞を腫瘍化させることが判明しました。この発見を発展させるため、多くのEBV関連疾患においてウイルスゲノムの解析を進めており、EBVゲノムの解析数では世界一を達成し、継続的に(2019~2025)論文を発表しています。
・2019年:CAEBV、節外性NK/T細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(Okuno Y, Nature Microbiology 2019;(3):404)
・2022年:上咽頭がん(Kondo S, Okuno Y, Cancer Science 2022;113(7):2446)
・2024年:節性T・NK細胞リンパ腫(Kato S, Okuno Y, Blood Advances 2024;8(9):2138)
・2025年:EBV関連胃がん(Kojima Y, Okuno Y, Journal of Gastroenterology 2025;60(1):55)
・2025年:EBV関連12疾患(Khine HT, Okuno Y, Blood 2025; 10.1182/blood.2024028055)[Blood誌のPlenary paperに選出]
特に2025年の、12疾患に由来する990検体のEBVゲノムを解析した研究では、疾患ごとに異なる欠損の頻度(例:上皮系腫瘍においては頻度が低い)や領域(例:節外性NK/T細胞リンパ腫ではBART microRNAクラスターが選択的に欠損する)から、疾患ごとに異なるがん化機構が判明しました。また、疾患横断的に働く機構として、EBVがコードするEBNA3Bがヒトのがん抑制遺伝子(RB1・PTEN)の発現を活性化させるがん抑制遺伝子であることを発見しました。EBNA3Bはがんにおいては転写抑制やゲノムからの欠損によって発現が抑制されており、これがEBV感染細胞のがん化に必要な1過程であると考えています。
これらの独自の研究成果に基づいて、EBVに対する治療法の開発を進めています。
[2] 希少がん・希少難病の原因解明・治療法開発(2011年~現在)
若年性骨髄単球性白血病(JMML)におけるSETBP1・JAK3変異の発見(Okuno Y, Nat Genet 2013;45(8):937-41)、微小変異解析(Wakamatsu M, Okuno Y, Leukemia. 2021;35(1):259)と、変異解析・遺伝子発現分析・DNAメチル化解析(Okuno Y, Blood 2018; 131(14):1576)を行い、病態解明と予後予測に貢献しました。この研究で、一部症例の白血病細胞がALK融合遺伝子を有することを発見し、1例においてALK阻害薬で完治を達成しました。
急性リンパ性白血病においてMEF2D融合遺伝子を発見し、予後不良やステロイド抵抗性との関連を示しました(Okuno Y, Journal of Clinical Oncology 2016;34(28):3451)。
小児の芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍の原因となるMYB融合遺伝子を発見しました(Suzuki K, Okuno Y, Leukemia 2017;31(7):1629)。
多中心性細網組織球症の原因解明を行い、1例において治療の可能性を示しました(Murakami N, Okuno Y, Haematologica 2020;105(2):e61)。
現在は、特発性毛細血管漏出症候群(クラークソン病)の治療法開発等を進めています。