日本学術振興会:科学研究費助成事業
研究期間 : 1998年 -2000年
代表者 : 島田 昌一; 植田 高史; 平林 義章; 藤森 修; 鵜川 眞也; 植田 弘美
塩味や酸味の受容体遺伝子の単離、同定とその機能を解析する目的で本研究を始めた。塩味と酸味の受容体に関しては生理学的にはアミロライド感受性陽イオンチャネルの特性を有すると考えられているため、味蕾が豊富に分布するラット有郭乳頭よりcDNAライブラリーを作製し、アミロライド依存性陽イオンチャネル遺伝子ファミリーと相同性を有する遺伝子のスクリーニングを行った。その結果、これらのcDNAの中で、酸味受容体遺伝子(MDEG1)を同定した(Nature,1998,395:555-556)。さらに酸味受容体イオンチャネルの他のサブユニットのcDNAをクローニングするためにラット有郭乳頭cDNAライブラリーをスクリーニングし、酸味受容体イオンチャキルを形成する新たなサブユニットとしてMDEG2を同定した。MDEG2に対する抗体をウサギで作成し、免疫組織化学法により詳細な局在を検討したところ、MDEG2はMDEG1と同一味蕾細胞に共存して発現していることが分かった。次にMDEG2をMDEG1と同時にアフリカツメガエル卵母細胞に発現させた系を用いて膜電位固定法により電気生理学的に機能を解析したところ、MDEG2がチャネル全体の脱感作を調節するサブユニットであることを証明した。さらに、ポイントミューテーションによるMDEG2のアミノ酸残基の人工的置換実験の結果、第二膜貫通部位のグリシン残基をフェニルアラニンに置換すると、その他のチャネルの特性を全く変えることなくMDEGイオンチャネルの脱感作現象が完全に消失することが分かった。一般に味覚では順応という現象があり、同じ味覚刺激に一定の時間さらされていると、その味覚に対する感受性が低下してくる。MDEG2サブユニットはMDEG酸味受容体チャネルの脱感作を調節することから、酸味応答の順応を調節するサブユニットであると考えられた。また、実験結果からMDEG2の構造の中でも481番目のグリシン残基が、チャネルの脱感作や順応に、重要なアミノ酸残基であることを明かとした。